■奨学金という言葉を聞くと返済しなくてもいいというイメージが非常に強いが……?
日本の奨学金はほとんどが貸与という形式。その一番大きな割合を占めているのが学生支援機構(かつての育英会)だが、全て貸し付けということになっているので返していかなければならない。正しく言えば「学資ローン」ということになる。
■ずっと昔から利子つきのものがある?
利子つきはかなり昔からある。無利子の奨学金もあるが、99年を境に利子つきの奨学金の割合がどんどん増えていった。当初利子つきの奨学金は一時的な措置だということだった。そして財政的な問題が解決すればなくなる予定だったが、利子つきの奨学金がどんどん増えていき、今や利子つきの奨学金が無利子の奨学金の3倍という状況になっている。
■返せない学生が多いと聞くが、延滞金はどのくらいのものか?
1年で10%の割合になる。だから少しずつ返していっても延滞金に吸収されて元金が減らない、むしろ延滞金が増え続けていっていつまでたっても目途が立たない方がたくさんいる。この問題を最初に知ったときは消費者金融と全く同じ問題が出ていると感じた。
■消費者金融の問題と構造は似ている?
返せない人たちは返したくても返せない。学費が高くなってしまったからおのずと借りる金額も増える。卒業した後に返していくわけだが、昔であれば安定した仕事に就いて返すことができた。しかし今では若者の間で非正規雇用とか不安定雇用が増えており、返すことができなくなっている。
本来返せなくなったときに救済手段があってしかるべきだが、あることにはあるが、不十分だったり様々な制限があって使えない。つまり構造的に生み出されている問題だという点で多重債務と非常によく似ている。
■延滞を続けると何が起こるのか?
延滞金が雪だるま式に膨らんでいくため、少しずつ頑張って汗水たらしてお金を稼いで返したとしても、元金は減らずに延滞金が膨らみ一生返し続けなければいけないことになりかねない。
また、2010年から一定期間返さないとブラックリストに載せるということを始めた(1。例えば将来的にはいろんなローンが組めないとか、クレジットの立て替え払いも利用できなくなる。いってみれば生活に色々な支障が出てくることが想定される。
■延滞3~8ヶ月目までは民間の回収会社が取り立てに来る?
消費者金融でも返せなくなると債権会社が取り立てをしたりクレジット会社もやっていたが、それがここに登場してきている。だから柔軟な対応をしてくれない。返さない人に対して非常に無理な請求をすることが現場で起こっている。
例えば月々わずかな金額でしか返せないのに「その金額ではダメだ!もっと大きな金額を返さなきゃならない!」とか、現場で見ていると返還猶予制度のことを回収会社がよく知らないようだ。そこでギクシャクしていって返還猶予制度も使えないということになっている。債権回収会社はあくまで回収に励んでいるようだ。
サラ金のようにジャンジャン電話をする形ではないが、それでも返せないものについて頻繁に取り立ての手紙が来たり電話があるとなると、本人にとっては相当大きなプレッシャーになる。
■アメリカでは奨学金を返せなくなった場合、差し押さえとなって金融商品として売られるが、日本でもそうなっているか?
金融商品といえるかわからないが、有利子の貸付金のほとんどが民間の資金である。よく日本学生支援機構が「ちゃんと返しましょう。次の世代の貸付金になるから」というが、多くの部分は民間の資金。つまり投資先となって利益を生んでしまっている、と見ている。
■9ヶ月たっても返せないときは、なにが起こる?
支払督促というか、簡単な裁判を起こされる。もちろんその前に「返さないと裁判を起こしますよ」という通知が来るためその時点でかなり追いつめられているが、実際に訴訟手続きとなってくると、裁判所に出ていかないと大変なことになる。
■学生が裁判所に行ったとして、その先はどうなる?
裁判所に行って分割返済の話ができればよいが、日本学生支援機構はなかなか柔軟に応じてくれない。そうすると制度上の救済手段が使えず、自己破産をせざるをえなくなる。ただ、破産手続きをすることで本人は救済されるが、連帯保証人に両親がなっていることが多く、本人が自己破産で救済されようとすると、結果両親に請求がいくということで破産もできず、無理な支払いを続ける人が多い。
■こういったリスクは、借りるときに説明されるのか?
あまりちゃんと説明されていないのでは。おそらくこの制度について契約するときの説明というものは高校の職員がすることになるのだろうが、あまりそこまで詳しく知っているとは思えない。制度が非常に複雑で理解するのが難しく、リスクや中身について細かい説明をされているわけではない。だから返せなくなったときに大変だ、となる。例えば延滞金が発生していると様々な問題が生じるが、延滞金についての説明も十分にはされていないのではないか。
■学生からすれば、契約書を見ても複雑でわからないのでは?
非常に複雑。この制度がいろんな法律だとか規則や規定で決まっている。場合によっては非公表の規則で決まっているものもあるので、本人が納得しないまま規則に縛られるという実態になっている。「パンフレットを読みなさい・ホームページで確認しなさい」というスタンスだが、あんな複雑な制度を本人が確認することは非常に大変なこと。それでいろんな問題が起きている。
■奨学金の相談はどの程度きているのか?
けっこうきている。様々な問題を抱えていて、生活が安定しないで返せないとか、延滞金を負けてくれなくて困るとか、制度上の救済手段を申し込んだが様々な制限があって使えないとか、中にはまだ返す段階にはない学生が「就職が困難なので何百万も奨学金を借りているのだけど、将来が不安でしょうがない」という相談もきている。
■借金を抱えて卒業となると、仕事を選べないのでは?
就職難の時代ではあるが、自分に合った仕事を見つけたほうがよいとは思う。ただ奨学金を返せないとなったら、まずは返すためにどんな仕事でもやる、ということになる。そこで仕事を選ぶことができなくなり、非常に大きな損失となる。収入が一定になるまでは猶予の制度もあるが、それも5年という上限があり、結局奨学金は学びのためではなく、返すことが目的となっている。
■その救済制度の条件は厳しいのか?
厳しい。例えば返還猶予という制度だと年収300万円以下で猶予が5年となっている。ということは、5年の後は知らないということになる。また、規則にはないが、延滞金がある場合は収入が少なくても猶予は使えない、つまり延滞金を払った後で猶予を使えることになっているが、そもそも延滞金を払えないから猶予してもらうわけで、非常におかしい。
また、大きな病気になって寝たきりで動きが取れなくなってしまったという場合に免除を認めるような制度もあるが、日本学生支援機構は猶予を何回か繰り返さないと免除の申請書を渡さないとか、そういうことが行われていた。こういう状況でストレスもたまり、さらに制度の利用を申請する際に色々な書類を用意しなければならない。生活に困難を抱えている人にとってはとても大変なこと。そういうことも事実上の障害となっている。
■制度自体がそもそもの本来の目的から逸脱しているということ?
目的から逸脱しているし、制度自体が破たんしていると思う。このままじゃ続かない。
■返せない人が向かう先は自己破産や生活保護?
もともと生活困難な人が返せない。その人たちは自力で再建するだけで大変な努力が必要となる。そこに何百万という奨学金の重荷が重なってくるので、自力でどうにかしようと思ってもできない。生活保護で無期限で猶予する制度もあるが、延滞金があると生活保護の人でも猶予せず、「最低生活費をもらってるんだからその中から延滞金を払え」と生活保護を受けている人にも言ってくる。
■こういう状況に陥っている若者は何人くらい?
若者かどうかわからないが、大体33万人くらいが延滞をしていると言われている。金額にして870億円が滞納となっている。
■33万人が見えないのはなぜか?
この問題の難しいところは、当事者が声を上げられないこと。借りて大学に行けた気持ちもあるだろうし、すごく真面目な人が多く、どうかしてでも返していこうと思い、自己責任の意識に凝り固まっている。だから「助けて」と言えない人たちだから表に見えてこないという面がある。だから世間が認知しない。
それから、世代間ギャップがある。昔は学費が安く、奨学金の借りる額も少なく、仕事も安定していたので、貸与であってもそれほど負担にならなかった。ところが今は学費が上がり、借りる金額は増えている。さらに仕事は不安定。全く違う世の中になっている。ところが年配の世代の方はそういう違う世の中になっていることがわからないので問題が見えにくいということもあるだろう。
■世代間ギャップの影響で、安易に奨学金を進める親もいるのでは?
リスクが十分に説明されていないことがあって、返済ができなくなって初めてこんな大変なことになっているんだ、あるいは制度上こんな厳しいことになっているんだということに気がつくのが実態では。
■国としても奨学金でパンクするような人たちを増やして結局社会的コストが増えていくだけでは?
回収できない人に対して回収の経費をかけて回収をするということは、誰も幸せにならない。無理だったら償却すればよい。ところがそれをやらないということで返す側も回収する側もなにもいいことがない。利子が高いということで目先の恩恵を民間がとるだけのことになっていて、少なくとも借り手のための制度にはなっていない。
■国会議員はこういう問題に気が付いているのか?
この問題に取り組んでいる議員がいるということは聞いている。ただ働きかけたばかりなので、誰が一生懸命やっているかまでは分からないが、超党派で取り組んでほしい問題である。問題が顕在化していないため、一部の議員には認識があるものの、まだまだ広まってはいない。
■アメリカでは選挙の政策の争点にもならず、政治と切り離されている。
若者が声を上げないと制度は変わらない。そういう意味で、相談活動や救済活動の一番の目的は「困っている人が自ら声を上げる」というところから始めよう、ということ。そうしないと制度自体が変わっていかない。また、一人ひとりの話を聞いていくと問題がよくわかるので、それを可視化していくのも活動の目的の一つ。
■大学の学費が高すぎないか?
ここ数十年でうなぎ上りに上がり、奨学金に頼らざるを得ないという状況を生み出したことは間違いない。大学の授業料の問題は非常に難しいが、特に私学では公的支援がないとなかなか立ちいかない面もあるから、それがどんどん削られていけば学生に転嫁せざるを得ない。一方で子供の数が減っている。そうするとむしろ大学側が学資ローンを含めて、奨学金を利用して大学に来て下さいとアピールするという問題もある。
■日本の公的教育予算はずっと下がっている?
日本の教育関連予算は非常に低い。例えばGDPの中では教育への公財政支出がOECDの加盟国の中で最下位かつ平均の半分(2。国際人権規約では高等教育を少しずつ無償化していきなさいという条項があり(3、今まで日本はそれを留保していたが、最近その留保を撤回した(4。加盟国として高等教育を無償化の方向に動きださなければいけないが、動きは全く逆に向かっていると言わざるを得ない。
(J-WAVE : JAM The World 2013年5月15日放送分「日本の奨学金制度について」から)
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(1 「返還開始後一定の時期における延滞者について、当該延滞者の情報を個人信用情報機関に登録することにより、延滞者への各種ローン等の過剰貸付を抑制し、多重債務化への移行を防止することは、教育的な観点から極めて有意義なことである」(「奨学金Q&A ~個人信用情報機関~」より)
(2 図表でみる教育 2012(pdfファイル)
(3 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)13条2項
(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。
(c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。
